イギリスが受け入れる香港からの脱出者に、中国スパイが紛れ込んでいる
ロンドンの中華街で民主派デモを行う香港からの移住者たち(2021年7月) BELINDA JIAO-SOPA IMAGES-LIGHTROCKET/GETTY IMAGES
<中国による香港弾圧への「対抗措置」として開かれた渡英への道が、中国に悪用される日>
香港からイギリスへの移住申請者の中に、中国スパイが紛れ込んでいる――英タイムズ紙は8月9日、英政府関係者のコメントとして、英政府がその存在を「認識している」と報じた。中国が香港の民主活動家への弾圧を強めるなか、イギリスは香港を脱出する移住希望者に特別ビザを発行している。このビザ申請者の中に、反体制派に成り済ました中国の工作員が紛れ込んでいるというのだ。
中国は2020年6月、反体制的な言論を封じる国家安全維持法(国安法)を施行し、香港民主派への弾圧を強化。対抗措置として、香港の旧宗主国であるイギリスは今年1月、1997年の香港返還前に生まれた香港市民が持ち得る「英国海外市民(BNO)」旅券の保有者に対し、英市民権取得への道を開く特別ビザの申請受け付けを開始した。
特別ビザは移住希望者とその家族に5年間の滞在を許可し、イギリスでの就労や修学を可能にする。うまくいけば5年後には英国市民権を申請する道が開ける。
タイムズ紙の報道によれば、英政府は特別ビザ申請者の中に中国スパイが潜入しているとの認識に立ち、申請手続きでは「厳しい身元調査」を行っているという。英内務省の報道担当者は本誌に対し、ビザ申請者にスパイの可能性のある者が何人いるか、人数についてのコメントを避けた。
国安法を支持していた人物に注意
香港の民主活動家で既に解散された民主派政党「香港衆志(デモシスト)」の元主席、羅冠聡(ネイサン・ロー)は昨年7月、中国による弾圧に身の危険を感じてイギリスに亡命。デモシストを共に立ち上げた黄之鋒(ジョシュア・ウォン)と周庭(アグネス・チョウ)は、国安法違反で逮捕され実刑判決を受けている。
ローは本誌の取材に対し、特別ビザ申請には在英香港人を守るためさらに厳しい身元調査が必要だと語る。中国と香港の政府職員や公安関係者の親戚など、国安法を公に支持していた人物たちに特に注意すべきだと主張。また、中国政府が共産党への批判統制や海外での影響力強化に使う「統一戦線」工作とつながる人物にも警戒すべきだという。
香港からの移住者や人権団体は、中国スパイが移住者を監視し、嫌がらせをし、攻撃することさえあり得ると警告する。ロー自身も、身に覚えがあると言う。「私も、ネット上で数多くの嫌がらせや個人攻撃を受けてきた」「自分は、イギリスで中国体制派から身体的な攻撃を受けたことはない。だが、イギリスで民主化デモに参加した人や活動家にはそうした経験もあったと聞く」
英内務省によれば、今年1月末に開始した特別ビザの申請受け付けは、3月末までに申込数が3万4300人に上った。だが最新の発表によれば、2月と3月の申請者のうち許可が下りた人は約20%にとどまっており、手続きの遅れは移住者が住居や仕事、経済的支援を探す上でハードルとなる。
香港市民を支援する英市民団体「英国港僑協会」のジュリアン・チャンは英ガーディアン紙に対し、「イギリスは香港人に対し住む国を提供したが、実際に移住しても生活できる環境はほぼ与えられていない」と語る。脱出した後も、香港人の戦いは続く。
デービッド・ブレナン
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